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京都地方裁判所 昭和33年(わ)588号 判決

被告人 吉住ハナ 外五名

主文

被告人吉住を懲役拾月及び罰金六万円に、被告人高柳を懲役八月及び罰金五万円に、被告人岩崎を懲役八月及び罰金六万円に、被告人谷を懲役六月及び罰金弐万円に、被告人塚崎を懲役六月及び罰金参万円に、被告人山田を懲役六月及び罰金弐万円に処する。

被告人等において右罰金を完納することができないときは、金四百円を壱日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。それぞれこの判決が確定した日から弐年間右各懲役刑の執行を猶予する。

(訴訟費用)(省略)

理由

(罪となるべき事実)

被告人吉住は「吉住」の、被告人高柳は「桝八」の、被告人岩崎は「常の家」の、被告人谷は「俵屋」の、被告人塚崎は「大秀」の、被告人山田は「ひな屋」の各屋号で娼妓置屋を営み、抱え娼妓の稼働による収益で生計をたてていたものであるが、昭和三十三年四月一日から売春防止法が全面的に施行されるようになつて営業を継続することができなくなつたためその去就に迷つていた折柄、当時の抱え娼妓等が新たに芸妓として再出発したい意向をいだいていることを知つて、いずれも従前の屋号で、被告人吉住は芸妓置屋兼小方屋を、その余の被告人は芸妓置屋を開業するに至つたが、

第一、被告人吉住は吉住甚三と共謀の上、住込み芸妓として稼動することを望んでいた山代時子が、男客から花代名下に金員を得て性交することの情を知りながら、敢て同年四月十八日頃同女を同被告人方に雇入れ、その肩書住居に住込ませて同女に売春をさせることを企て、なお、同女を常時同所店先に待機させ、お茶屋等の求めに応じて出向かせ、その稼ぎ高である花代の数量等を宮川町お茶屋組合に届出で、同組合から毎月末頃同女の取分として手渡される金員を集計して、その十分の七を同女に、十分の三を看板料として同被告人に配分し、また、闇花と称して右組合を経由しない花代のうち、同女の取分としてお茶屋等から手渡される金員については、同被告人がこれを記帳保管し、毎月末頃に集計してそのうちから花代一本につき五円の割合による手数料を徴収し、その残りを同女と同被告人とに前同様七、三の割合で配分する等の取決めをした上、同女を同年四月中旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約百六十数回にわたり、同被告人方から同市東山区宮川筋界隈のお茶屋等に出向かせて不特定多数の男客を相手に性交させ、その対価として芸妓花代名下に取得した金員のうちから、前記取決めの趣旨により、看板料、手数料名下に合計約五万八千余円を収得し、

第二、被告人吉住、同高柳は吉住甚三と共謀の上、住込芸妓として稼働することを望んでいた今西加津子、島田芳子、西村美津栄が、男客から花代名下に金員を得て性交することの情を知りながら、敢て同年四月八日頃今西及び島田を、同年五月初旬頃西村を被告人高柳方に雇入れ、その肩書住居に住込ませて同女等に売春をさせることを企て、なお、同女等を常時小方屋である前記被告人吉住方店先に待機させ、お茶屋等の求めに応じて出向かせ、その稼ぎ高である花代の数量等を被告人吉住が前記組合に届出で、同組合から毎月末頃同女等の取分として手渡される金員を各別に集計して、その十分の七宛を同女等に、十分の三宛を看板料として被告人高柳に配分し、また、闇花と称して右組合を経由しない花代のうち、同女等の取分としてお茶屋等から手渡される金員については、被告人吉住がこれを記帳保管し、毎月末頃に集計してそのうちから花代一本につき五円の割合による手数料を徴収し、その残りを同女等と被告人高柳とに前同様七、三の割合で配分し、且つ、同女等から被告人吉住に対し毎月店借料として八百円宛を支弁する等の取決めをした上、今西を同年四月初旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約二百数回、島田を同年四月中旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約百五十数回、西村を同年五月初旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約百数回にわたり、いずれも被告人吉住方から同市東山区宮川筋界隈のお茶屋等に出向かせて不特定多数の男客を相手に性交させ、その対価として芸妓花代名下に取得した金員のうちから、前記取決めの趣旨により、被告人吉住が店借料、手数料名下に合計約二万五千余円を、被告人高柳が看板料名下に合計約十一万千余円を収得し、

第三、被告人吉住、同岩崎は吉住甚三と共謀の上、住込み芸妓として稼働することを望んでいた中西美智子、原田純子、徳永スズ子、松本武子が、男客から花代名下に金員を得て性交することの情を知りながら、敢て同年三月末頃中西を同月中旬頃、原田を、同月初旬頃徳永を、同月十三日頃松本を被告人岩崎方に雇入れ、その肩書住居に住込ませて同女等に売春をさせることを企て、なお、前記第二と同趣旨の取決めをした上、中西を同年四月初旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約百十数回、原田を同年四月中旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約百五十数回、徳永を同年四月下旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約四十数回、松本を同年四月下旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約百十数回にわたり、いずれも被告人吉住方から同市東山区宮川筋界隈のお茶屋等に出向かせて不特定多数の男客を相手に性交させ、その対価として芸妓花代名下に取得した金員のうちから、前記取決めの趣旨により、被告人吉住が店借料、手数料名下に合計約二万二千余円を、被告人岩崎が看板料名下に合計約十二万余円を取得し、

第四、被告人吉住、同谷は吉住甚三と共謀の上、住込み芸妓として稼働することを望んでいた岩崎恵美子が、男客から花代名下に金員を得て性交することの情を知りながら、敢て同年三月末頃同女を被告人谷方に雇入れ、その肩書住居に住込ませて同女に売春をさせることを企て、なお、前記第二と同趣旨(但し看板料は正規花と闇花とを合せてそのうちから月額一万円とし、その余は同女の取分とする)の取決めをした上、同女を同年四月初旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約八十数回にわたり、被告人吉住方から同市東山区宮川筋界隈のお茶屋等に出向かせて不特定多数の男客を相手に性交させ、その対価として芸妓花代名下に取得した金員のうちから、前記取決めの趣旨により、被告人吉住が店借料、手数料名下に合計約四千余円を、被告人谷が看板料名下に合計三万円を収得し、

第五、被告人吉住、同塚崎は吉住甚三と共謀の上、住込み芸妓として稼働することを望んでいた紀伊野秀子、中場香が、男客から花代名下に金員を得て性交することの情を知りながら、敢て同年四月初旬頃同女等を被告人塚崎方に雇入れ、その肩書住居に住込ませて同女等に売春をさせることを企て、なお、前記第二と同趣旨の取決めをした上、紀伊野を同年四月中旬頃から同年六月下旬頃までの間前後約百数回、中場を同年四月下旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約八十数回にわたり、いずれも被告人吉住方から同市東山区宮川筋界隈のお茶屋等に出向かせて不特定多数の男客を相手に性交させ、その対価として芸妓花代名下に取得した金員のうちから、前記取決めの趣旨により、被告人吉住が店借料、手数料名下に合計約九千余円を、被告人塚崎が看板料名下に合計約五万三千余円を収得し、

第六、被告人吉住、同山田は吉住甚三と共謀の上、住込み芸妓として稼働することを望んでいた森かね子が、男客から花代名下に金員を得て性交することの情を知りながら、敢て同年四月二十六日頃同女を被告人山田方に雇入れ、その肩書住居に住込ませて同女に売春をさせることを企て、なお、前記第二と同趣旨の取決めをした上、同女を同年五月初旬頃から同年七月初旬頃までの間前後約百十数回にわたり、被告人吉住方から同市東山区宮川筋界隈のお茶屋等に出向かせて不特定多数の男客を相手に性交させ、その対価として芸奴花代名下に取得した金員のうちから、前記取決めの趣旨により、被告人吉住が店借料、手数料名下に合計約五千余円を、被告人山田が看板料名下に合計約三万二千余円を収得し、

以て、それぞれ人を自己の占有しまたは管理する場所に居住させ、これに売春をさせることを業としたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人等の判示各所為は刑法第六十条、売春防止法第十二条にあたるので、その所定刑期及び刑額の範囲内において、被告人等を主文第一項記載のとおり量刑処断し、換刑処分について刑法第十八条を、刑の執行猶予について同法第二十五条第一項を、訴訟費用の負担について刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条を適用する。

弁護人の主張について

弁護人前堀政幸等は、被告人吉住等の本件所為は、売春に従事する者に対する管理支配の関係が認められないから、売春防止法第十二条の罪を構成しないと主張する。

おもうに、同条は「人を自己の占有し、若しくは管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ、これに売春をさせることを業とした者は云々」と規定し、これ等の場所に居住させることを要件の一つにしているが、その法意は、これを立法の経過等に鑑ると、売春に従事する者を右に規定する場所に居住させて、いつでも容易に男客を相手に性交させることができ、或いは売春に対する報酬を管理し、分配取得する等の関係を設立することにより、その者を支配し、または支配可能の状態のもとにおいて売春をさせることを業とした者を処罰する趣旨に解すべきところ、被告人吉住等は、判示のように、山代時子等婦女を雇入れて自宅に住込ませた上、常時小方屋に待機させ、求めに応じて被告人吉住の指示によりお茶屋等に出向かせて不特定多数の男客を相手に性交させ、その対価として得た報酬を、取決めの趣旨に則り集計保管し分配取得していたものであり、その他証拠によつて認められる芸妓としての在籍関係や金借関係等の諸事実を綜合すると、被告人吉住等の所為は、まさに同女等売春に従事する者を支配し、または支配可能の状態のもとにおいて、これに売春をさせることを業とした場合に該当するものといわなければならない。弁護人のこの点に関する主張をとらなかつた所以である。

以上の理由により主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本盛三郎)

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